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2007年 08月 02日
エディー・パルミエリ&ブライアン・リンチ @Bluenote 07.8.1
昔から考えている事がある。ラテン・ジャズってなんなの?って。

「ラテン・ジャズ」って言葉は「ラテン風味のジャズ」みたいな語順でジャズの一種みたいだけど、ジャズもラテンも両方ともたかだかここ100年ちょっとの同じような歴史の中で育った音楽。それからすると、「ジャズ・ラテン」って呼んだっていいのでは。

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100年前のニューオリンズとハバナはビジネス相手のお隣さんで、かつ一つの文化圏とも言えた。ジェリーロール・モートンの録音にはラテンのリズムが」あり、W.C.ハンディーの曲にはハバネラが潜む。20年代の「アマポーラ」、30年代の「ピーナツ・ベンダー」に代表されるヒット。ラテンはNYの音楽の大きな要素の一つだった。エリントンの名作「キャラバン」の作曲者はプエルトリコ人のトロンボーン奏者のファン・ティソールだ。

(左は1900年頃のニュー・オリンズ、下は1900年頃のハバナEl Prado:今とあんまりかわんない・・)


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それからマリオ・バウサチャノ・ポソなどが、パーカーガレスピーたちが、そしてティト・プエンテティト・ロドリゲスマチートの3大ビッグ・バンドなどが交錯する40-50年代、。そして60年代のデスカルガやカル・ジェイダーなどの西海岸・・・。





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ヒスパニック人口がついにアフロ・アメリカンを抜いてしまった今のアメリカじゃ、「ラテン」を分離せずとも普通の環境になっている州も多い。ニューヨークはプエルトリカンを筆頭に3割。ロスは半分、マイアミは半分以上。ニューヨーク、カリフォルニア、テキサス、フロリダの4州が全米の6割のヒスパニック人口を擁する。

そんな中で育った音は、すでに「ラテン」だ「ジャズ」だという必要がないかもしれない。フロリダ育ちのジャコ・パストリアスのリズム感はまさしくそれだと思う。

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マチートとラロ・ロドリゲスが共演盤する大名盤「Fireworks」聴いていて、前述の疑問がまた湧いてきた。

そうだ、エディー・パルミエリ来るじゃないか。しかも今回はブライアン・リンチとの「ラテン・ジャズ」とくくられるユニット。どうしようかと思ってたら、以心伝心かAさんからメールが。
ブルーノート初日の2ndステージに飛び込んだ。

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トランペットのブライアン・リンチはアート・ブレイキーやホレス・シルバーのコンボ、秋吉敏子のビッグバンドの要、中島美嘉のアレンジまでやっちゃう、ソロも音のまとめ役もばっちりの達人。

ベースはボリス・コズロフ(Boris Kozlov)。ミンガス・ビッグ・バンドやリンチとの活動。マイケル・ブレッカー・バンドにも参加してましたね。


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ドラムはミシェル・カミーロ来日時でおなじみの若手ダフニス・プリエト(Dafnis Prieto)。

エディーについてはいまさら言うこと無いけど、1936年NY生まれのプエルトリカン。今年71才。とにかく60年代の演奏からずっとテンション度高いエネルギーには圧倒されてしまう。

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1曲目、エディーの鍵盤から流れ出したメロディーは、うん「アドラシオン」。イントロの二拍三連/ハチロクの部分のタッチが非常に美しい。ああ、うっとり。
ブライアンはのっけから熱い。ソロの受け渡しでプリエトとエディーとのノリがしっくりこないのが少しずつ温まって行く。

2曲目はモントゥーノ・フレーバの高いブルース進行。曲名なんだっけ?
自由度が高い曲だから、みんなそれぞれに挑発し遊んでいる。エディーはモントゥーノのパターン崩しからモーダルなメロディーへ行くかと思うと、不連続にパーカッシブな挑発をしてドラムやベースを動かしたり、マッコイな4度をラテンなリズム感覚でたたきつける。楽しいねえ。これでバンドは十分暖まりました。

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3曲目は3拍子でちょっとメカニカルなコード進行が美しいSlippery。3拍子を逆手にとったラテンリズムで遊ぶのかなと思ったら、コードの流れとメロディーの作りが変幻自在でした。ベースのソロがとてもよかった。当たり前とは言え、テクも素晴らしい。

4曲目はぐっとリリカルにThema Para Marissa。リンチってクリフォード・ブラウンのような面があるなあ。メロディーの高低・跳躍のイマジネーションにも音がぶれない、そして美しくパッショネイト。

5曲目The Palmieri's Effect。モードなイントロからちょっとだけひねった進行を題材に、みんな遊ぶ。エディーは左手に感服。すごいわ。ブライアンが要所で切り替えいくのだけどさすがですね。

そしてアンコール。ブライアンが最後までリトモ・カリエンテなソロで引っ張り、エディーもゴリゴリやってくれました。ウェーーパァ!

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ステージの後、まずベースのコズロフと話した。彼は91年にロシアからNYに移り住み活動してる。ラテンはレイ・バレットやリンチのグループからだって。

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ちょっと疑問をぶつけてみた。
「ストレート・アヘッドなジャズをやるのとエディーみたいなラテン/ラテン・ジャズをやるのとアプローチは違うの?」
「ジャズもラテンも歴史があるよね。ジャズならオスカー・ペティフォード、ジミー・ブラントン、レイ・ブラウン、リチャード・デイビス、ロン・カーター、スコット・ラファロ、ジャコって感じで。
ラテンならカチャオとかアンディー・ゴンサレス、サル・クエバス・・」
Aさん「ジョー・サンティアゴ」
「そうそう、良いよね。ルベン・ロドリゲスとか、もちろんベース・プレーヤーだけじゃなくて、ラテンの歴史をしっかり意識することじゃないかな」
「それって、キューバンってこと?」
「そうじゃない。ラテンはキューバンだけじゃないだろ?エディーはプエルトリカンだし、ラテン全てだよ。」

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Aさんはエディーとその息子とお友達なんで楽屋へダベリに行く。
孫のJIRO君もじいちゃん(エディ)、父ちゃんにくっついて来日中。

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エディーと話すのは3回目。1回目はロイサのフィエスタ・パトロナレスだった。
「とにかくね、ロイサは最高だった。"Rumbero del Piano"の頃。覚えてます?ボンバとかコンテストがあってマエストロも」
「そうだ、審査員やったなぁ。おい(と孫に声をかける)ロイサってしってるか。プエルトリコの町でな、ロイサ・アルデアっていうんだ。アフロ・アンティジャーナの音があるんだ。ボンバだよ。ボンバはな・・・」

こうやって文化は後の世代に伝わるのね。

「あのライブはフロントがエルマン・オリベーラホスエ・ロサードウイッチー・カマーチョで」
「ああ、ウイッチーいたなあ。」
Aさん「エルマンはいいよねえ」
「そう、そうエルマンはほんとうまいよ」
「そうだよな」

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親子3代、エルマンの事は意見一致ですね。いいねえ、こんな話しできる家族って。自分も将来孫にロイサ・アルデラの話しをしてやろう。

プエルトリコの話ししたり、来週来日のオスカル・デ・レオン、9月のルイス・ペリーコ・オルティスの話したりして、ハグして退散しました。

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で、疑問は解けたのかって?
そんな一発でとけるわきゃない。

今回もらったヒントは、音楽が今に至ってる道筋を踏まえて聴かなきゃねって事。

ジャズもラテンも「ジャズ」「ラテン」なんてひとつの言葉で括れるほどシンプルなものじゃない。たった100年の間に、いろんな音楽家と聴き手がいろんなことを試して、苦しんで、楽しんで今の音があるんだよね。

バップだけ、コンボだけ、デスカルガだけ、キューバだけとかありえない。ジャズもラテンもわれら日本人から出たものじゃないだけに、よーく、いろいろ聴かなくちゃね、とね。

by mofongo | 2007-08-02 16:26 | Musica


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