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2010年 02月 05日
David Sanchez Quartet Jan.30, 2010 @ Cotton Club, Tokyo
彼を初めて聴いたのはプエルトリコでだった。"Sketches of Dreams"(1995)を出したばかりの頃。

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次はジォバニ・イダルゴ(Giovanni Hidalgo)とミシェル・カミーロ(Michel Camiloと)のライブ。

ジォバのソロ・アルバム"Hands of Rhythm"(1997)のリリース記念だった。高速トゥンバオ系の2名にも楽々対応していたのが印象的。









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終演後のホテルでの打ち上げに参加した時、初めて話をした。とても人当たりが柔らかく、ソニー・ロリンズの話をしたのを覚えている。

自分が学生の頃演った"St. Thomas"、"Antigua"と言ったカリブの島々の名前をタイトルにつけた曲と彼の自由なフレージングの話だった。







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それからサンファンで行なわれたFestival de Bomba。
故ラファエル・セペーダの息子のヘスース(Jesus Cepeda)やロベルト話していると、ふらっと現れたのがサンチェスだった。

彼の兄はボンバのグループでやっていたし、彼自身もサックスを始める前はトゥンバドールを目指していたくらいだから、ボンバは当たり前のもの。ヘスースの娘のダンスを一緒に見ながら色々教えてくれた。

◆◆◆

今月下旬発売のラティーナ誌に山本幸洋さんのインタビュー&ライブ・レポの記事が載るけど、サンチェスのディスコグラフィーを作るお手伝いをした。その時、棚から引っ張り出した彼の参加作を端から聴いてら、彼のライブを初めて聴いたときに頭に浮かんだ事を思い出した。


ラテン系なミュージシャンがパーカッション入りでジャズをやると、取り敢えず「ラテン・ジャズ」と括られる。

アフロ・キューバンからラテンジャズの系譜というのは大きくあるのだけれど、自分はその系譜の発展系だけでは物足りない感も強い。特にラテンのリズムの上にシンプルにジャズのハーモニーを乗せた、というような婚姻形態。

70年代のフュージョン以降、「ラテン・ジャズ」のレッテルと直接関係のない所でヒント(例えばウエザー・リポート)がたくさん出ている、一方でビル・フリゼールやパット・メセニー、ジョン・ゾーンのマサダの様に自己が属する場の音を再構築・提示するような音もある中で、ラテン出自のミュージシャンのアプローチも耳が欲していた。

従来型でもフォルクロリックでもメインストリームでもなく、でもラテンという「その場所にいた人しか出せない」リズム・ハーモニー・メロディーの自由度を感じさせてくれる音を聴きたいのだった。

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1998年の”Obsession”はサンチェスがラテンの曲を素材にしたアルバム。アイディアはレコード会社からのものだったとか。


簡単に「ラテン・ジャズ」になりそうな素材だし、そうするのに何の困難もなかったろうけど、彼の興味はそこになく、伝統とその自由度に対する強力なレスペクトを、フォームにとらわれず自然に湧き立たせたいという風に聴こえた。





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その後"Melaza" (2000)、"Travesia" (2001)を経て、コロンビア・レーベルでの最後の作品 "Coral"(2004)。
そしてコンコード・ピカンテに移籍して最新作の"Cultural Survival"(2008)まで4年の時間があった。

彼はその間、色々な音の中にいたのだけど、2005年のメセニーとのツアーは特に彼にとってとても大きかったんじゃないかと思う。





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メセニーとやっているドラマー、アントニオ・サンチェス(Antonio Sanchez)の "Migration"(2007)での、クリス・ポッターとの競演は強力だった。愛聴盤。そして翌年の"Cultural Survival"のリリース。これがまた素晴らしい。

コンポジションも面白く、変拍子や仕掛けのリズムと美しく刺激的なハーモニーの枠の中で、サンチェスはそれを気持ちよく縫いながら、自由に力強く流れるようなラインを紡ぎ出す。

そしてそれは表にははっきり見えるフォームではないが、リズムの捉え方、音色とアーテキュレーションの柔らかさ「ラテン」から出た彼でこその音になっていた。

ヘンリー・コール(プエルトリコ出身)やアダム・クルース(NY出身。親父はティンバレーロのレイ・クルース)と言ったラテンもジャズも分かるドラマーとの組み合わせはサンチェスがやりたい事をするのに絶対必要。"Cultural Survival"とはなんとも象徴的なタイトルなしのかもしれない。

こんな感じで来日を心待ちにしていた。
Cotton Clubでの最終日の2ndに飛び込む。

◆◆◆

メンバーは
ダビッド(デイヴィッド)・サンチェス (David Sanchez : sax)
ラゲ(ラージュ)・ルンド (Lage Lund : g)
リッキー(リカルド)・ロドリゲス (Ricky Rodriguez : b)
E.J. ストリックランド (E.J. Strickland : ds)

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ルンドはノルゥエー人で"Cultural Survival"でのユニットの中心の一人。マーカス・ストリックランド(Marcus Strickland : sax)のユニットで演ったりしてる。ナチュラルな音色で曲全体の流れの変化への対応が素晴らしいプレーヤー。

ロドリゲスはポンセ生まれのプエルトリカン。彼の名前を初めて見たのはエンデル・ドゥエニョ(Endel Dueño : Timb, ds) の"Energy"。




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ストリックランドはラビ・コルトレーンのオーケストラで来日もしていて双子の兄弟であるマーカス(Marcus Strickland)と共にユニットを組んでいたり、昨年ソロ・アルバム"In This Day"を出したり。

このあたりの人脈は重なっていて、ベーシストで言えば名手スコット・コーリー (Scott Colley)、 ハンス・グロウイッシュニク(Hans Glawishnig)、オルランド・ルフレミング (Orlando LeFleming)などの名前が行き来する。


1曲目は曲名わからず。新曲か?
演奏全体がCDとちょっとちがうイメージなのはストリックランド.のドラムのせい。ラビのバンドや彼のソロ・アルバムで感じられる通り、時にエルビンのような流れの切り分け方とアクセント、重みとダイナミクスがアントニオ・サンチェスやヘンリー・コールなんかと全然違う。しかし、それにあわせてサンチェスやルンドは大きくアプローチを変えるわけじゃない。

2曲目は"Coral"。ブラジルのHeitor Villa-Lobosの作品。マイナーのボサノバのスローな曲。ルンドのソロも素晴らしい。パーカッションもコンガもない編成だし、ルンドのグラデーションが次々に変わるハーモニーはまさに今のジャズのイデオムなのだけれど、サンチェスのメロディー/歌の中には何故かラテンやブラジルが感じられる。決してそれを意図しているとは思えないのだけれど。


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3曲目は"Cultural Survival"。5拍子のテーマにE.J.が大きな枠の流れに好きにアクセントをばら撒く。CDでのアダム・クルースよりストリックランドはスネアを強く使うのでかなりリズムが強く趣が異なる音。

サンチェスもそのポリリズミックなプレーの中を途切れぬメロディーで歌う。太い音色はブロウしてもぎらついたりザラついたりしない。相当頭と体を刺激され満足。

4曲目は"Pra Dizer Adeus"(To say Goodbye)。 ブラジルの作曲家Edu Loboの作品で2001年の"Travesia"に収められている。パット・メセニーとのツアーでも演奏された曲。
ほぼギター、ベースのトリオのように奏でられる曲は静寂の中、スロー・バラードというよりボレロとブラジルの湿度の感覚が漂い耳が音に引き込まれる。

そして5曲目はエディー・パルミエリの名曲アドラシオン"Adoracion"。サンチェスもルンドも素晴らしい。EJもたっぷり煽る。サンチェスは相当熱いプレーだが、ピアノではなくギターとの組み合わせは単純な予定調和の盛り上げなどにならない為に効果的かも。などと頭の隅によぎりながらサンチェスとルンドのメロディーを追っていた。
これが最後の曲だった。


そしてアンコールは静かで優しいメロディー。星空を見るような感じ。ルンドの変化するハーモニーにサンチェスの大きなメロディーが流れる。良い曲でした。


◆◆◆

終わって、メンバーと話した。
EJに今回の来日の事、ソロ・アルバムの事など聴いていたら、突然

EJ「な、今かかってる曲知ってる?」

ってニコニコし出した。女性ボーカルにトランペットがかぶる。「えっ?」と考えていると

EJ「ドラマーは誰だかわかる?エルビンだよ。この曲は何度も聴いたなあ」ってまたニコニコ。


ロドリゲスはすごいフレンドリーに受け答えてくれた。

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「で、ポンセーニョだよね」
「あ?なんで知ってんの?」
「島にまた住みたいよ。」
「おー、エルマーノ」(がしっ)

エンデルのエナジーで聴いたのが初めてなんだけど」
「あー?エンデルの?おい、ダビ!こいつエンデルのとか言ってるよ、わははは。あれはエリック・フィゲロアとかすごくてさ」

一気に盛り上がる。

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サンチェス「エンデルもすごいよね」
「覚えてないかもしれないけど、プエルトリコのジォバとカミーロのライブの楽屋で話したのが最初なんだよ。」
「あー?!ホテル・エル・サンファンだ!」
「あのころグアイナボに住んでてさ」
「えっ、オレ、グアイナボ出身!」

また盛り上がる。
今はアトランタに住んでいるとか。

ダニーロ・ペレスやルイス・ペルドモ、ミゲル・セノン、ヘンリー・コール、アダム・クルース、アントニオ・サンチェスなんかの話、そしてメセニーやパルミエリの話も。色々な共演者との経験が今の自分を作ってるって。

ほんと音楽が楽しそうだった。
良い夜。

by mofongo | 2010-02-05 01:50 | Musica


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