人気ブログランキング | 話題のタグを見る
2010年 09月 27日
ラテンビート映画祭/キューバ音楽の歴史(1)
第7回目となるラテンビート映画祭

ラテンビート映画祭/キューバ音楽の歴史(1)_b0015362_215094.jpg


もう見たい作品満載だったけどまず先週の土曜日に2本見ました。そのうちの1本が『キューバ音楽の歴史/Historias de la Musica Cubana』
2009年キューバ・スペイン合作によるドキュメンタリー。
5人の監督がキューバ音楽をテーマに製作した内の2作が今回公開。一本50分ほどで、サクっと楽しめる。


一つ目は「キューバ・ジャズへの眼差し」パベル・ジロー監督

ラテンビート映画祭/キューバ音楽の歴史(1)_b0015362_221961.jpg
マンテカの誕生の話を導入部として、チューチョ・バルデスがシンキージョやダンソンなどのキーワード、米西戦争後のアメリカの影響・・・と話をつなぎ貴重な映像が随所に挟み込まれる。

リリ・マルティネスの映像とか。コンガかなぁ、カルナバルのリズムとモサンビーケとマーチを合体させたような革命直後の演奏とか、フランク・エミリオ師匠の定番"Gandinga, Mondongo y Sandunga"の貴重な映像とか。

やはり興味深いのは革命を境とした大きな変化。
「ジャズ」はアメリカの音楽として演奏しにくかった時代。

ラテンビート映画祭/キューバ音楽の歴史(1)_b0015362_2115780.jpg
3年前にOrquesta Cubana de Musica Modernaという、若きチューチョやカチャイート、エンリケ・プラやギジェルモ・バレート、アルトゥーロやパキートやファン・パブロ・トーレスなどが参加した当時、トップの公認オルケスタの音源のコンピを捕獲した。

その67-70年の録音は「ジャズ」や「アメリカの音楽」を内側に隠した、今の自分の耳には何となく「不自然な」音楽であると同時に、マグマのような力も感じた。その後のイラケレにもつながるこのオルケスタの映像もあり、CDだけでは分からなかった当時の雰囲気を大きく感じる事が出来る。


67年というと、NYではブガルーからサルサ、ジャズならモードからフリーへと動きコルトレーンが亡くなってしまった年、ロックならサージェント・ペパーズ、サイケ、ジミヘンとウッドストック直前、ソウルR&Bならスライからファンクへ。

しかしキューバではそんな流れから断ち切られている。ミュージシャンはフロリダからの短波、中波で少しは情報を得ていただろう。オルケスタ・モデルナのレパートリーにブガルー風味のものもある。

しかし情報は限られていた上に、表立って色々トライする訳にはいかなかったと思う。聴衆も同じく流れから断ち切られていただろう。(良い悪いの話ではない)


ラテンビート映画祭/キューバ音楽の歴史(1)_b0015362_252378.jpg
よくキューバ革命によってNYにキューバの音楽が入らなくて、とかいうクリシェの説明があるが、むしろ史実としては、キューバにアメリカの影響が入りにくくなった上、ミュージシャンの創造に制約までかかっていた事の方がよっぽど重要だと思う。

チューチョが自分の作品を「ジャズ」だと取られない様に苦労して作ったという話も出てきたが、革命以後のキューバの音楽がそれまでの発展と全然異なる「環境」に置かれた事を表す話だ。


ラテンビート映画祭/キューバ音楽の歴史(1)_b0015362_281338.jpg
以来キューバ音楽とサルサは全く別の文脈で動いてきていたが、90年代キューバ政府が外貨獲得の為音楽資源を積極的に活用し出し、ミュージシャンもそれまで「自分らの音楽はサルサではない」と当たり前の事を言っていたのに、レベの親爺までが「サルサ、サルサ」と言いだした。チャングイなのに。

しかしそこで初めてサルサの流れにキューバ音楽の一部が重なってきたという事だ。




ラテンビート映画祭/キューバ音楽の歴史(1)_b0015362_284839.jpg
だから90年代、ティンバが出来上がっていく中で日本では「新しいサルサだ」とか「サルサはキューバの音楽」とか、情報不足のせいで声高に語っていた人たちもいたが、この映画の中でも示されているように、ティンバはサルサの発展形なんかじゃない。イラケレの名曲"Bacalao con Pan"あたりを祖先としているもの。

キューバ音楽の歴史がしっかり背景にあるティンバをサルサと呼ぶのはおかしな話だと思う。

YouTubeでIrakere - Bacalao con Panを見る

むしろキューバのサルサへの影響は今のサルサにこそもっと語られるべきだ。ヒルベルトの近作など、昔のパチート・アロンソの音かと思うようなものもある。

・・・という風な事を含め色々考えさせてくれた貴重な映像と証言が満載の面白い作品でした。



2つ目の「フィーリン(気持ち)を込めて」はまた別に。


*東京会場は終了してしまったけど、京都は10/3(日)まで、そして横浜会場は10/8(金)-10/11(月)まで。

by mofongo | 2010-09-27 02:09 | Musica


<< ロベルト・ロエナ胸像完成      Los Borrachos L... >>